・本書(上下巻)は、高校日本史の基礎知識のうえに丁寧な解説を加えて内容を発展させた、近現代日本経済史の概説書である。おもに大学学部の専門科目「日本経済史」用の教科書に適しているが、そのほか日本近代史の読み直しを希望する一般読者にとっても十分に満足できる内容としている。
・このうち上巻である本書は、江戸時代から第1次世界大戦までの近代経済史を対象としている。そこではデータを加工・分析して「考える歴史」を指向しているため、高校までの「暗記する歴史」の修正を促している。
・本書の記述スタイルは、複雑な歴史を理解しやすいように、時間軸にそって多分野の項目を盛り込んだ「編年体」流ではなく、時間の前後関係を多少逸しても項目を絞ってその因果関係を重視した「紀伝体」流を採用している。
・記述内容では、①対象分野は、産業・企業等の実体経済面に偏ることなく、金融経済面まで積極的に踏み込むこと、②各現象・各政策の具体的内容や製造方法・製品特性等の産業情報を丁寧に書き込むこと、③特定の学派・集団の考え方に固執せず通説を中心に記述すること、④関連する経済理論にも言及して、因果関係のほか事象・政策の影響まで留意すること、を心掛けている。
目次
第1章 近代経済への助走
- (1) 江戸期経済の再評価 (2) 江戸前期の経済拡大 (3) 江戸中期の経済成熟 (4) 幕末期の経済動乱 (5) 商業の発展と地域間構造 <コーヒーブレイク:武士の多様性>
第2章 移行期の通貨問題
- (1) 江戸期の通貨制度 (2) 開港による経済の混乱 (3) 通貨制度の暫定的継承 (4) 新貨幣・新紙幣の発行 (5) 中央集権化に向けた動き <コーヒーブレイク:明治維新の立役者>
第3章 財政再建の抜本策
- (1) 江戸期の土地事情 (2) 地租改正の背景 (3) 地租改正の考え方 (4) 実施過程と影響・評価 (5) 秩禄処分の断行 <コーヒーブレイク:公図と百年の大計>
第4章 未熟な勧業政策
- (1) 殖産興業政策の意義 (2) 本格的政策の変遷 (3) 事業実態と官業払下げ (4) 御雇外国人の実像 (5) 勧業政策の行方 <コーヒーブレイク:命脈を保った富岡製糸場>
第5章 信用制度構築の曲折
- (1) 為替会社と為替会社紙幣 (2) 頓挫した国立銀行の導入 (3) 国立銀行急増と環境整備 (4) 銀本位制への回帰 (5) 周回遅れの金本位制採用 <コーヒーブレイク:国立銀行の系譜>
第6章 政策スキームの転換
- (1) 維新政府の残した難問 (2) 大隈財政の挫折 (3) 大蔵卿松方正義の登場 (4) 紙幣整理の実態 (5) 中央銀行の設立 <コーヒーブレイク:両と円を結ぶ時空>
第7章 産業化の律動
- (1) 産業革命の諸相 (2) 企業勃興の前提条件 (3) 紡績・鉄道・鉱山の第1次勃興 (4) 日清戦争と第2次勃興 (5) 日露戦争と第3次勃興 <コーヒーブレイク:元祖「地方の時代」>
第7章(補論) 近代繊維工業の定着
- (1) 綿業の発展 (2) 絹業(製糸業)の発展 (3) 絹業の製造工程 <コーヒーブレイク:日本のシルクロード>
第8章 天佑の経済的帰結
- (1) 第1次大戦の衝撃 (2) 重化学工業の興隆 (3) 政商から財閥への深化 (4) 地主制の確立と変質 (5) 金融経済の肥大化 <コーヒーブレイク:近代日常生活の登場>