・本書(上下巻)は、高校日本史の基礎知識のうえに丁寧な解説を加えて内容を発展させた、近現代日本経済史の概説書である。おもに大学学部の専門科目「日本経済史」用の教科書に適しているが、そのほか日本近代史の読み直しを希望する一般読者にとっても十分に満足できる内容としている。
・このうち下巻である本書は、第1次世界大戦直後から高度経済成長期までの近現代経済史を対象としている。そこではデータを加工・分析して「考える歴史」を指向しているため、高校までの「暗記する歴史」の修正を促している。
・本書の記述スタイルは、複雑な歴史を理解しやすいように、時間軸にそって多分野の項目を盛り込んだ「編年体」流ではなく、時間の前後関係を多少逸しても項目を絞ってその因果関係を重視した「紀伝体」流を採用している。
・記述内容では、①対象分野は、産業・企業等の実体経済面に偏ることなく、金融経済面まで積極的に踏み込むこと、②各現象・各政策の具体的内容や製造方法・製品特性等の産業情報を丁寧に書き込むこと、③特定の学派・集団の考え方に固執せず通説を中心に記述すること、④関連する経済理論にも言及して、因果関係のほか事象・政策の影響まで留意すること、を心掛けている。
目次
第1章 バブル崩壊に大震災
- (1) 危機の時代の始まり (2) 関東大震災と直後の対策 (3) 震災手形問題の発生 (4) 金融恐慌とその対策 (5) 金融市場の再編整備 <コーヒーブレイク:最高意思決定機構の変遷>
第2章 遅れた金本位制復帰
- (1) 金本位制の考え方 (2) 金本位制下の政策運営 (3) 金解禁論争の概要 (4) 金解禁の実施と影響 (5) 不均等成長と都市化 <コーヒーブレイク:金解禁関係者の死亡現場>
第3章 昭和恐慌からの脱出
- (1) 昭和恐慌の概要 (2) 管理通貨制への急転換 (3) 恐慌下の高橋財政前期 (4) 景気回復に転じた後期 (5) 高橋財政の評価 <コーヒーブレイク:2人の個性的な「高橋」>
第4章 戦時統制経済の確立
- (1) 転換点の1936年 (2) 戦時統制経済の枠組み (3) 軍需生産の総動員体制 (4) 食糧生産の減退 (5) 1940年体制論 <コーヒーブレイク:大艦巨砲主義の敗北>
第4章(補論) 海を越えた「円」
- (1) 円ブロックの形成 (2) ブロック内の通貨制度 (3) 円ブロック経済の実態 <コーヒーブレイク:政策研究集団の淵源>
第5章 占領下の経済改革
- (1) 戦後改革の基礎 (2) 財閥解体より着手 (3) 企業再編政策へ拡大 (4) 農地改革の徹底実施 (5) 労働改革の変節<コーヒーブレイク:マッカーサーと床屋史談>
第6章 経済復興の本格化
- (1) 終戦時の経済状況 (2) 超インフレの鎮静化策 (3) 戦時補償打ち切りの衝撃 (4) 生産体制の再建手順 (5) ドッジ・ラインの断行 <コーヒーブレイク:財産税の悲劇三題>
第7章 持続的高成長の出現
- (1) 息の長い経済成長 (2) 高成長の発生メカニズム (3) 賃金・物価・消費の連関 (4) 企業間関係の変質 (5) 行財政部門の制度設計 <コーヒーブレイク:転用される近世遺産>